参加者の知識に差がない場合のフリップ回答形式のパネルクイズの最適戦略
10点~50点のように素点の異なる問題があり、参加者が順番に1人ずつ好きなジャンルの問題を選んで回答するような形式のパネルクイズについて考える。詳細なルールは後述する。
このモデル化においては、全員の知識が同程度であり、どの参加者も同じ問題に同程度の確率で正解できるものとする。また、自分の得点を他の人の得点よりどの程度高くできるかということのみを考えるものとし、特定の人物の得点を下げたい、というような状況や、優勝するための確率を上げるためにはどうすればよいか、というような状況は考えない。
この記事の主張
「問題選択者のみが回答するが、問題に不正解だった場合には得点がマイナスされる」という形式や、参加者全員の知識が同程度である場合において、「全員が回答するが、問題に不正解だった場合に問題選択者は2倍の得点を失う」という形式の場合、得点の低い問題の方が難しかったとしても、最も得点の低い問題を選ぶことが最適となる場合がある。
早押しクイズでは、問題の答えにあまり自信がない場合はスルーした方が良いということが有り得る。パネルクイズでも、答えが分かりそうにない場合はチャレンジをせず、得点の低い問題を選んだほうが良いということである。
別にそういう形式のクイズを誰かが開催していたということではなく、そういうことが起き得るのではないかと思ったので、単に計算してみただけである。
問題形式の分類
芸能 |
スポーツ |
アニメ&ゲーム |
10点 |
10点 |
10点 |
20点 |
20点 |
20点 |
30点 |
30点 |
30点 |
40点 |
40点 |
40点 |
50点 |
50点 |
50点 |
ルール
- ジャンルと素点の異なる複数のクイズがあり、クイズに正解すると問題の素点に応じた得点が貰える。
- すべての問題に回答するまで、以下を繰り返す。
- 参加者の一人が問題選択者となって未挑戦の問題を1つ選ぶ。
- 1人以上の回答者(後述)がフリップに答えを書いて同時に回答する。
- 回答の正誤、および問題に割り当てられた素点に応じて、各回答者が得点を得る。
- 問題の数は参加者の数で割り切ることができ、参加者のそれぞれが同じ回数ずつ問題選択者になる。
- すべての問題に回答するとゲームが終了する。
- この状況下で自分が他の参加者より最も多く点数を取る方法を考える。
回答者の分類についてのルール
不正解時の得点についてのルール
問題選択者の得点についてのルール
- 得点補正なし
- 問題選択者は得点が素点の2倍
- 問題選択者は正解時のみ得点が素点の2倍
これらを組み合わせると、以下のように分類できる。
|
回答者の分類 |
不正解時の得点 |
問題選択者の得点 |
a |
問題選択者のみ回答 |
得点なし |
補正なし |
b |
全員解答 |
得点なし |
補正なし |
c |
全員解答 |
得点なし |
2倍 |
d |
問題選択者のみ回答 |
マイナス |
補正なし |
e |
全員解答 |
マイナス |
補正なし |
f |
全員解答 |
マイナス |
2倍 |
g |
全員解答 |
マイナス (※注) |
正解時のみ2倍 |
※注 パターン g では問題選択者は不正解時に2倍の影響を受けない
これを数値化すると以下のようになる。各セルは「問題選択者のスコア倍率 : 他の解答者のスコア倍率」を表している。
|
正解の場合 |
不正解の場合 |
a |
1:0 |
0:0 |
b |
1:1 |
0:0 |
c |
2:1 |
0:0 |
d |
1:0 |
-1:0 |
e |
1:1 |
-1:-1 |
f |
2:1 |
-2:-1 |
g |
2:1 |
-1:-1 |
先に結論のみを述べる
b, e の場合
どの問題を選んでもゲーム終了時の最終得点は変わらず、問題を選択するフェーズにおいてはゲーム性がない。
a, c, g の場合
正解率期待値と問題の素点の積が最も大きい問題を選ぶのが最適である。
d, f の場合
確率から50%を引いた値に問題の素点を掛けた値が一番大きいものを選ぶのが最適となる。また、ここから得られる帰結として、全ての問題の正解期待値が50%未満の場合は最も素点の低い問題を選ぶのが最適戦略となる場合がある。
細かい仮定
自分の正解確率の期待値が既知という仮定
どのような問題が出るかは分からないものの、ジャンルや他の問題の傾向からおおよその自分の正解確率が予想できるという状況を考える。この正解確率の予想値を、以下では正解率期待値と呼ぶことにする。(実際には、これは単に問題に正解できる確率のことである。)
芸能 |
スポーツ |
アニメ&ゲーム |
10点 → 60% |
10点 → 90% |
10点 → 15% |
20点 → 45% |
20点 → 85% |
20点 → 10% |
30点 → 20% |
30点 → 80% |
30点 → 10% |
40点 → 15% |
40点 → 70% |
40点 → 5% |
50点 → 10% |
50点 → 60% |
50点 → 5% |
他の仮定
- 自分が他の参加者より最も多く点数を取る方法のみを考え、最も点数の高い人を妨害して勝利する方法などについては考えない。
- f, g のケースにおいて、参加者全員の正解率期待値が等しく、既知であるということを仮定する。
ゲームの利得を実際に計算する
b, e の場合
まず明らかに、b, e の場合はどの問題を誰が選択するかによって得点は変化しないため、どれを選んでもよい。
a, c の場合
a の場合は、純粋に正解率期待値と得点の積が最も大きい問題を選べば良い。
c の場合は a と b の合成であるため、これも同様である。
d の場合
d の場合、自分が問題を選択した場合に得られるスコアの期待値は、p を正解率期待値、s をスコアとすると、 $(2p-1)s$ となり、正解率期待値から50%を引いた値に得点を掛けた値が一番大きいものを選ぶべきである。
具体例として、すべての問題の正解確率が 49% ならば、最もスコアの低い問題を選ぶのが最適戦略となる。また、別の考察としては、正解率期待値が50%を超える問題が存在するならば、正解率期待値が50%以下の問題を選ぶメリットはない。
また別の具体例として以下のような例を考えてみる。
芸能 |
スポーツ |
アニメ&ゲーム |
10点 → 5% |
10点 → 10% |
10点 → 15% |
20点 → 10% |
20点 → 15% |
20点 → 20% |
30点 → 15% |
30点 → 20% |
30点 → 25% |
40点 → 20% |
40点 → 25% |
40点 → 30% |
50点 → 25% |
50点 → 30% |
50点 → 35% |
たとえば上記のような状況を考えると、「アニメ&ゲームの50点」問題は「アニメ&ゲームの10点」問題よりも点数が高い上に2.3倍もの確率で正解できるにもかかわらず、自分が最も高い点数を得るためには、「アニメ&ゲームの10点」問題を選択する方が最適な戦略ということになってしまっている。
この例で得られる得点の期待値は以下の通りである。
芸能 |
スポーツ |
アニメ&ゲーム |
-9 |
-8 |
-7 |
-16 |
-14 |
-12 |
-21 |
-18 |
-15 |
-24 |
-20 |
-16 |
-25 |
-20 |
-15 |
f の場合
f のケースにおいては、簡単のため、参加者全員の正解率期待値が等しく、既知であるということを仮定する。
この場合、自分が得られる点数の期待値と、他の参加者が得られる点数の期待値の差は、 $$(4p-2-2p+1)s = (2p-1)s$$ つまり状況としては d と同じである。
ここで注意しなければならないのは、状況としては同じだと述べたが、同じなのは選択すべき問題がどれかという状況であって、クイズに全員が解答するかどうかという点ではクイズとしてのゲーム性が異なってくる。実際に、参加者の正解不正解が同じだったとしても、ゲームの勝者は変わってくる可能性がある。例えば、運悪く自分が選択した問題で正解できなかったものの、他の人が選択した得点の高い問題で正解した場合などがその例だろう。
g の場合
g のケースにおいても、簡単のため、参加者全員の正解率期待値が等しく、既知であるということを仮定する。
この場合、自分が得られる点数の期待値と、他の参加者が得られる点数の期待値の差は $ps$ となる。従って、正解率期待値と得点の積が最も大きい問題を選べば良い。
ゲームに勝利するための最適戦略
f のケースにおいて、自分が問題を選ばなかった場合にどのように得点が変化するかについても考えておく。自分が得られる点数の期待値と問題選択者が得られる点数の期待値の差は、自分が問題を選んだ場合の得点の期待値の差の符号反転であり、 $-(2p-1)s$ となる。また、問題選択者ではない参加者との点数の期待値の差は 0 である。ここから言えることは、最も自分が選びたい問題というのは、同時に最も他の人に選んでほしくない問題ということであり、従って、最も自分が選びたい問題を選択することが、今回の仮定のもとで、ゲームに勝利するための最適戦略となる。
他のケースにおいても同様のことがいえる。
参考:2倍ではなく r (>1) 倍のスコアを得られる場合
f の場合
この場合の差は、 $$(2pr-2p-r+1)s = (2p-1)(r-1)s$$ となる。この場合、r>1 の条件下で結論は変わらず、正解率期待値から 50% を引いた値に得点を掛けた値が最も高い問題を選ぶのが最適ということになる。これは、自分の得られる得点に掛かる倍率が変わっただけで、最大点は結局のところ変わらないからである。
g の場合
この場合の差は、 $(r-1)ps$ となり、r>1 の条件下で結論は変わらず、正解率期待値と得点の積が最も大きい問題を選ぶのが最適となる。
おわりに
他の人の正解確率が異なる場合なども考慮すると複雑になってしまうため、また別の機会に検討したい。しかし、当たり前だが、自分だけがクイズに強ければ、どのように問題を選んでもゲームに勝利できる。
こんなに長い記事を書くつもりじゃなかった。
参加者の知識に差がない場合のフリップ回答形式のパネルクイズの最適戦略
10点~50点のように素点の異なる問題があり、参加者が順番に1人ずつ好きなジャンルの問題を選んで回答するような形式のパネルクイズについて考える。詳細なルールは後述する。
このモデル化においては、全員の知識が同程度であり、どの参加者も同じ問題に同程度の確率で正解できるものとする。また、自分の得点を他の人の得点よりどの程度高くできるかということのみを考えるものとし、特定の人物の得点を下げたい、というような状況や、優勝するための確率を上げるためにはどうすればよいか、というような状況は考えない。
この記事の主張
「問題選択者のみが回答するが、問題に不正解だった場合には得点がマイナスされる」という形式や、参加者全員の知識が同程度である場合において、「全員が回答するが、問題に不正解だった場合に問題選択者は2倍の得点を失う」という形式の場合、得点の低い問題の方が難しかったとしても、最も得点の低い問題を選ぶことが最適となる場合がある。
早押しクイズでは、問題の答えにあまり自信がない場合はスルーした方が良いということが有り得る。パネルクイズでも、答えが分かりそうにない場合はチャレンジをせず、得点の低い問題を選んだほうが良いということである。
別にそういう形式のクイズを誰かが開催していたということではなく、そういうことが起き得るのではないかと思ったので、単に計算してみただけである。
問題形式の分類
ルール
回答者の分類についてのルール
不正解時の得点についてのルール
問題選択者の得点についてのルール
これらを組み合わせると、以下のように分類できる。
※注 パターン g では問題選択者は不正解時に2倍の影響を受けない
これを数値化すると以下のようになる。各セルは「問題選択者のスコア倍率 : 他の解答者のスコア倍率」を表している。
先に結論のみを述べる
b, e の場合
どの問題を選んでもゲーム終了時の最終得点は変わらず、問題を選択するフェーズにおいてはゲーム性がない。
a, c, g の場合
正解率期待値と問題の素点の積が最も大きい問題を選ぶのが最適である。
d, f の場合
確率から50%を引いた値に問題の素点を掛けた値が一番大きいものを選ぶのが最適となる。また、ここから得られる帰結として、全ての問題の正解期待値が50%未満の場合は最も素点の低い問題を選ぶのが最適戦略となる場合がある。
細かい仮定
自分の正解確率の期待値が既知という仮定
どのような問題が出るかは分からないものの、ジャンルや他の問題の傾向からおおよその自分の正解確率が予想できるという状況を考える。この正解確率の予想値を、以下では正解率期待値と呼ぶことにする。(実際には、これは単に問題に正解できる確率のことである。)
他の仮定
ゲームの利得を実際に計算する
b, e の場合
まず明らかに、b, e の場合はどの問題を誰が選択するかによって得点は変化しないため、どれを選んでもよい。
a, c の場合
a の場合は、純粋に正解率期待値と得点の積が最も大きい問題を選べば良い。
c の場合は a と b の合成であるため、これも同様である。
d の場合
d の場合、自分が問題を選択した場合に得られるスコアの期待値は、p を正解率期待値、s をスコアとすると、 $(2p-1)s$ となり、正解率期待値から50%を引いた値に得点を掛けた値が一番大きいものを選ぶべきである。
具体例として、すべての問題の正解確率が 49% ならば、最もスコアの低い問題を選ぶのが最適戦略となる。また、別の考察としては、正解率期待値が50%を超える問題が存在するならば、正解率期待値が50%以下の問題を選ぶメリットはない。
また別の具体例として以下のような例を考えてみる。
たとえば上記のような状況を考えると、「アニメ&ゲームの50点」問題は「アニメ&ゲームの10点」問題よりも点数が高い上に2.3倍もの確率で正解できるにもかかわらず、自分が最も高い点数を得るためには、「アニメ&ゲームの10点」問題を選択する方が最適な戦略ということになってしまっている。
この例で得られる得点の期待値は以下の通りである。
f の場合
f のケースにおいては、簡単のため、参加者全員の正解率期待値が等しく、既知であるということを仮定する。
この場合、自分が得られる点数の期待値と、他の参加者が得られる点数の期待値の差は、 $$(4p-2-2p+1)s = (2p-1)s$$ つまり状況としては d と同じである。
ここで注意しなければならないのは、状況としては同じだと述べたが、同じなのは選択すべき問題がどれかという状況であって、クイズに全員が解答するかどうかという点ではクイズとしてのゲーム性が異なってくる。実際に、参加者の正解不正解が同じだったとしても、ゲームの勝者は変わってくる可能性がある。例えば、運悪く自分が選択した問題で正解できなかったものの、他の人が選択した得点の高い問題で正解した場合などがその例だろう。
g の場合
g のケースにおいても、簡単のため、参加者全員の正解率期待値が等しく、既知であるということを仮定する。
この場合、自分が得られる点数の期待値と、他の参加者が得られる点数の期待値の差は $ps$ となる。従って、正解率期待値と得点の積が最も大きい問題を選べば良い。
ゲームに勝利するための最適戦略
f のケースにおいて、自分が問題を選ばなかった場合にどのように得点が変化するかについても考えておく。自分が得られる点数の期待値と問題選択者が得られる点数の期待値の差は、自分が問題を選んだ場合の得点の期待値の差の符号反転であり、 $-(2p-1)s$ となる。また、問題選択者ではない参加者との点数の期待値の差は 0 である。ここから言えることは、最も自分が選びたい問題というのは、同時に最も他の人に選んでほしくない問題ということであり、従って、最も自分が選びたい問題を選択することが、今回の仮定のもとで、ゲームに勝利するための最適戦略となる。
他のケースにおいても同様のことがいえる。
参考:2倍ではなく r (>1) 倍のスコアを得られる場合
f の場合
この場合の差は、 $$(2pr-2p-r+1)s = (2p-1)(r-1)s$$ となる。この場合、r>1 の条件下で結論は変わらず、正解率期待値から 50% を引いた値に得点を掛けた値が最も高い問題を選ぶのが最適ということになる。これは、自分の得られる得点に掛かる倍率が変わっただけで、最大点は結局のところ変わらないからである。
g の場合
この場合の差は、 $(r-1)ps$ となり、r>1 の条件下で結論は変わらず、正解率期待値と得点の積が最も大きい問題を選ぶのが最適となる。
おわりに
他の人の正解確率が異なる場合なども考慮すると複雑になってしまうため、また別の機会に検討したい。しかし、当たり前だが、自分だけがクイズに強ければ、どのように問題を選んでもゲームに勝利できる。
こんなに長い記事を書くつもりじゃなかった。